2012年7月20日金曜日

学生のマナー

  企業で働いていた頃の友人と話をしていて、最近の若者のマナーの悪さが話題になることが多い。そしてその原因の一つとして、とどのつまりは学校時代に十分教育されていないからでは、ということになる。企業をやめて今や教育の場にいる私めとしては、いささが憮然たる心持ちになるのが常であった。

  そんなこともあり、私は毎回の授業の中で機会を捉えては「社会人になるに当っての心構え」として各種の社会常識を教えることにしている。何しろ、名前を呼ばれても返事ができない学生、はがきでリポートの提出をさせれば手紙の書き方も知らない学生、… など驚くべき状態の学生がときどきいるからである。

  前期の最後の授業では、今期のすべての予定が順調に消化でき余裕もあったので、残りの時間は社会常識、情報倫理、仕事に取り組む姿勢、などにしぼった話をして講義を締めくくった。そして資料を片づけ帰り支度をしてから、構内にあるバス停に並んで学生達と一緒にバスの到着を待つことにした。

  このバスは大学と最寄り駅とを結ぶ大学専用のものである。既に多くの学生達が並んで待っているが、この位置なら何とか座れそうである。しかし学生達は、仲間を見つけては前の方に割り込んでくるから、バスが来る頃にはかなり後ろの位置になってしまうことが多い。それはもう最初から覚悟していた。

  以前のことだが、足を怪我して松葉づえをついている学生が乗ってきたことがあった。バスが動き出しても誰も席を譲ってあげようとしない。ゆられて転んだらまずいと思った私は、立ち上がって席を譲ってあげることにした。しかしその学生は特に礼を言うでもなく、恐縮するでもなく、そのまま座って友人達と談笑していた。どうも社会一般の反応とは異なるようである。電車内で席を譲る行為も恥ずかしくてできない、あるいは躊躇したりする学生が多い。譲られる経験も少ないのであろう。

  バスを待つ学生がかなり増えた頃、やっとバスが到着した。その時私の真後ろにいた学生が、突然「木下先生。どんどん割り込んでいますよ!」と声を掛けてきた。振り向くと先程の私の授業に出席していた学生である。「どんどん割り込んでますよ。先生、前に行きましょうよ!」とかなり憤慨した様子である。なるほど、気が付くとかなりの人が前に割り込んだ結果、もうかなり後ろの位置になってしまっている。「そんなに割り込みが許せないのかい?」と私が言っても、視線を前方に向けたままで、まるで聞いていないようだ。次の瞬間「先に行きますよ!」と言って、一人で前の方に走って行き20人ほど追い越してさっさと乗車してしまった。

  私が日頃から情報倫理に関連して道徳とかマナーに言及することが多いので、私を公徳心の塊りのような人間と思っていたのかもしれない。その“公徳心の塊り”を追い越して割り込み行為に加わるには、一言断ってからにする必要がある、それが最低限の礼儀であるとでも思ったのであろうか。なに、教えていることと実際の自分とは別物だから“公徳心の塊り”を追い越しても何の不都合もなかろう。

  私はこの学生が取った行為に少し驚きながら、そのまま列の動きにしたがって乗車口へと進んでいった。私が動かなかったのは公徳心からではない。単に大人としてそんな恥ずかしい行為はしたくなかっただけのことである。

  さて、いよいよバスに乗ろうとした時、少し離れた所から一人の男性がカメラをこちらに向けて構え、バスの乗車口の様子を撮影していることに気が付いた。変に思ったが、私はそのまま乗車した。見ると先程の学生は後方の座席に自分の席をしっかりと確保したようであった。よかった、よかった。私は、もう最初から座るのを諦めていたから、多くの学生と一緒に入り口付近に立つことにした。

  ところが、ふと見ると私の目の前の席が一つ空いているではないか。様子を見たが誰もそこに座ろうとしない。私は恐る恐るというか、これ幸いというか、その席に(できるだけ遠慮がちに)ゆっくりと座ったのであった。どうやら割り込んだ学生達も、年寄りの先生の為に一つだけ席を残しておいてくれたらしい。私はほんの少し、ほのぼのとした気持ちになった。やはり礼儀をわきまえた学生もいるのだ。

  それにしても、あの時私が学生と一緒になって前に割り込んだりしていたら(そんな可能性は全くないが)…、そうだ、あのカメラにしっかりと記録されていたかもしれない。「バスの乗車の列に割り込む先生」という傑作写真をものされていたかもしれない。その結果、授業で礼儀作法や道徳の話はできなくなっていたことであろう。危ういところであった。しかし、あのカメラは一体何だったのだろう。今もって分からないでいる。

2012年7月13日金曜日

ハート係数

  最近、インターネット上でハート曲線を表す式に出会った。見事なほどに美しい式である。


  この式が表現するハート曲線の形状をつぶさに見ていて、図の曲線が実は上下の方向に若干圧縮されていることに気が付いた。式の表すハートの型を作者の好みに合わせて修正したのであろう。
  もし圧縮されていなければ、この式はどういう形状になるのだろうか。私は知的好奇心を刺激され、早速コンピュータ上でやってみることにした。それが以下のものである。コンピュータ上で実装する際には、上下の方向に伸び縮みできるように、式を若干変更してみた。定数 h を導入し“ハート係数”と名付けてプログラム化したのである。


  ハート係数 h の値を 1.2 とすると程良い形になった。ハートの形とは不思議な物で、上下に長いと何か上品な印象を受ける。逆に短いと幼い感じになる。これは個人的な好みに類するものであろうが。
  私が推奨するハート曲線方程式は以下のものである。


  ハート係数の値をいろいろに変えて表示してみた。


  貴方(女)の好みのハート係数の値は、どのくらいですか。
プログラムの詳細は、いずれホームページ上に公開する積りである。