2015年5月8日金曜日

30分インターバル運動のすすめ

★本記事のリライト版を、ホームページ上に
30分インターバル運動
       ── 定期的に身体を動かすことの重要性」

として掲載しました。(2015-6-1)

仕事をやめて以来、書斎の机の前に座っている時間が増えた。自分の自由になる時間が増えて大変結構なことなのだが、一つだけ気懸かりなことがある。コンピュータなどをいじっているとつい夢中になってしまい、気が付くと数時間も同じ姿勢で過ごしている自分に気が付くからである。私は深部静脈血栓症という病気を抱えているので、時々立ち上がっては身体を動かす必要がある。しかるに、私は何かに熱中すると集中力が高まって自分の関心事以外のことは忘れてしまう傾向がある。当然、身体を動かすという大事なことも忘れてしまう。

 そこで“30分インターバル運動”というのを始めることにした。これからの高齢化社会では、特に年配者には是非とも心得ていて欲しいことなのだが、それを理解してもらうためには定期的に身体を動かすことの重要性を先ず知ってもらうことが第一であると考えた。そこで、自分のミスで右脚に血栓が出来てしまった経緯を先ず紹介しておこうと思う。

◆長時間通勤
 私は大学教師をしていた頃、毎週1回は川崎市から埼玉県の久喜市にある大学のキャンパスまで電車で通っていた。JRと私鉄を乗り継いで(当初は)都合3回の乗り換えが必要であり大学まで2時間半ほど掛かる。しかし午後からの授業を担当していたので10時半頃に家を出れば午後一番の授業には間に合った。したがって、行きはそれほど苦にはならなかったが帰りはつらかった。プログラミングの授業を2コマ連続して担当していたので、貸し出したコンピュータの後片付けを責任を持ってやらなければならない。授業が終わるとぐずぐずしている学生をせきたてながらコンピュータを回収し、それをロッカーに収納して施錠するということを確実に行わねばならなかった。その間に学生から質問を受けたりする。そんなこんなで授業を終えると4時半頃になってしまう。

 それから大学のバスを利用してJRの久喜駅まで行き、往路と同じルートで帰宅することになる。帰りの電車はかなり混んでいて全く空席がない。都心に近づく頃には通勤客の帰宅ラッシュの時間と重なり増々混んで来る。家に着くのは6時半から7時頃になるが、それまでの間座ることができるチャンスは皆無である。つまり授業の始まる1時から帰宅する7時頃までずっと立ちっ放しでいなければならないのだ。これはかなりつらいことではあったが、長時間通勤には慣れているので最初の頃は体力的に何とかなっていた。

 その後何年かすると、埼京線が開通しそれを利用すると3回の乗換え(登戸、新宿、赤羽)が2回(登戸、新宿)で済むようになった。ラッシュ時の乗換えはかなり体力を要するからこれでかなり楽にはなった。しかし座れないという事情は変わらなかった。

◆痛恨のミステーク
 更に何年かして、素晴らしい解決策が見つかったのである。実は久喜駅には私鉄の東武伊勢崎線も乗り入れている。この線が、他の私鉄と相互乗り入れをするようになったのである。これを利用すると久喜駅から東武伊勢崎線の北千住を通り、更に半蔵門線で渋谷まで、そして田園都市線で溝の口まで乗り換えなしで一気に行けることになる。私鉄の溝の口駅は、私の家の近くのJR駅の隣りの駅なので後は歩いて帰宅できる距離なのだ。なんという幸運! 信じられない程の幸運に恵まれ、私は久喜駅発の電車で最初から座ったまま一直線で帰宅できることになったのである。

 このルートは距離的にはかなりの遠回りになるので乗車時間は約2時間と長くなる。そこで帰宅時だけこのルートを利用することにした。帰りで疲れていることもあり、一度利用すると以後は迷うことなくこの楽な方のルートで帰宅するようになってしまった。これが第一の間違いだったのである。

 電車の柔らかい座席に長く座っていると、つい眠たくなってしまい30分位は眠ってしまう。途中で目が覚めると後は本を読んだりして過ごすのだが、ずっと同じ姿勢でいたために腰や尻のあたりが痛い。これでは血行が悪くなると思い、私はできるだけ足先を動かしたりしていた。本当は立ち上がって身体全体の筋肉をほぐしたかったのだが、最初のうちは空いていた電車内も、都心に入り今や通勤客で満員の状態になっている。とてもそんなことをする余裕はない。
 こんなことを毎週繰り返しているうちに私は血栓症になってしまったらしいのである。注意していれば防げた筈の痛恨のミステークであった。

 最近は上野東京ラインの開業とともにJR各線の間でも相互(直接)乗り入れが行われるようになった。「北関東から熱海まで」それこそ乗換えなしの直通で行けるようになったらしい。便利ではあるが年配者は気を付けた方がよいと思う。乗り継ぎ不要というのは良いことばかりではないのである。

◆身体を動かすことの必要性
 ところで、私の深部静脈血栓症が見つかったのは偶然のことだった。たまたま脚のむくみが酷いので病院で診てもらったところ、右脚のふくらはぎの部分に血栓ができていることが分かったのである。血栓はむくみの直接の原因ではなかったが、見つかったのは幸運と言うべきであろう(むくみの原因は未だ分かっていない)。
 血栓というのは存外簡単にできてしまうものらしい。治療法は血栓をそれ以上成長させないようにすることが中心となる。以来私は抗凝血薬を毎日のみ、一日中弾性ストッキングを穿いていなければならない身となってしまった。

 医療専用の弾性ストッキングを着けると血流が良くなるのだという。血管が締め付けられて細くなったら逆に血流が悪くなるのではないかと思うが、そうではないらしい。足全体が圧迫され続けるため下肢の静脈のよどみが少なくなり、下肢静脈の血流がよくなるのだそうである。川幅の広い大きな川の水はゆったりと流れるが、川幅が狭いと水流は速くなるという理屈である(*1)
【注】(*1)ここでは血液の流れを、川の流れのアナロジーで説明した。しかし交通渋滞での車列の流れの問題解決にこのアナロジーを適用するのは理論的には可能であるが、明らかに現実的ではない。
医師の説明では、下肢の血液を心臓まで送り返すには大変な圧力が必要になり心臓の負担となる。そこで運動をすれば両脚の血管がポンプの役割を果たしくれて血液を押し上げる助けになる。しかし齢を取ると血管が固くなりポンプの役を果たす力が弱くなってしまう。そこでストッキングで絞めつけて筋肉が収縮した状態にしておけば、身体を動かすとそれが圧力となってポンプ機能を復活させることが期待できる、ということらしい。つまりストッキングを付けて両下肢を動かすことが血栓予防には特に重要なのである。

 毎朝起床すると私はまずストッキングを身に着けるのだが、これが慣れないとなかなかうまくできない。初めの頃はかなりの時間を要していた。ストッキングを一日中身に着けているのは更に大変で苦痛以外の何物でもない。特に夏の暑い季節はつらい! 本当につらいのである。暑い夏を迎えて思うのは、ただ自分の不注意に対する悔悟の念ばかりである。

◆時間間隔
 身体を動かす間隔(インターバル)を私は30分と設定したが、これは各人の事情に合わせて適当に設定するのがよいであろう。
 私がまだ企業人であった頃、毎朝の電車通勤では2時間を要していた(昔から私は長時間通勤に運命付けられていたらしい)。JR線で約36分、立川で乗り換え再びJR線で約30分という具合だった。乗り継ぎではかなりの待ち時間を要したから、これが直通で行けたら1時間で済むのにと何度思ったことか。しかし今から思うと、この長時間通勤で血栓症を引き起こさずに済んだのだから、30分というは丁度良い間隔だったのだろう。そう思って30分と設定したのである。

◆実践方法
 30分インターバル運動を実践するには、30分ごとにアラームを鳴らす時計が必要となる。昔の家には柱時計というのがあり、1時間ごとに「ボーン」という音を、その時の時間の数だけ鳴らしてくれたものである。夜中に目覚めたとき、この音を聞くと思わずその数を数えてしまい頭がさえてしまって困ったのを思い出す。こういう柱時計は30分になると1度だけ「ボーン」と鳴るようになっていた。そういう時計があるとよいのだが、現在ではなかなか手に入らないようだ。いろいろと考えた末、私はコンピュータ上の時計を用いることにした。普段から利用しているフリーソフトの「SGウォッチ」(これは素晴らしいソフトです)で試してみたところ、私の要求を十分に満たしているようである。

(SGウォッチ)

 アラームが鳴ると私はすぐ立ち上がり、スクワット(Squat)、プランク(Plank)、ダンベル(Dumbbell)、踏み台昇降(Step aerobics)などの運動の中から適当に選んで実行することにしている。自分の定めたノルマを30分ごとにやっていると、午前中だけで一日分のノルマをほぼすべて完了してしまう。午後は専ら軽い運動だけにする。お手玉をやったり、片足立ち(1分)をやったり、ただ立ち上がるだけ、だったりといろいろである。

 アラームとして何を鳴らすかも重要である。私の場合は音楽を鳴らすことにしている。何かに夢中で取り組んでいると1度のベル音のみのアラームでは気が付かない恐れがある。音楽なら安心かというとそうでもない。何かに熱中していると「あれ? いま確か音楽が鳴っていたような気がするが・・・」となることが多いのだ。慌ててタイマーの画面を確認すると今まさにアラームが鳴り終わった直後であることが分かったりする。ある程度の長さ(4分前後)のミュージック・ファイルをベル音ファイルの欄に設定しておくとよい。

 たとえば、私の場合「コンドルは飛んで行く(4分22秒)」や「この広い野原いっぱい(3分55秒)」などが丁度良い長さである。一度「さとうきび畑」を使ったことがあるが、これは10分以上なので長すぎた。アラームが終わるとすぐまた次のアラームが始まるという感じになってしまい忙し過ぎてうまくいかなかった。

 ここで“30分インターバル運動”の運動とは“Exercise”の意味ではなく、キャンペーン“Campaign”くらいの意味である。高齢社会で長生きし(たとえ持病を持っていても)健康で普通の生活が送れるようにするためのすすめである。
 そして血液の流れを良くして脳梗塞や虚血性心疾患といった循環器系の病気を起こさないようにしたいと思う。ご同輩の方々が関心を持ってくれることを切に期待しています。■