2018年6月29日金曜日

David Griesのコンパイラ作成法


・ブログ (ドッと混む・Knuhsの書斎) から転載

── コンパイラ作成法


 私の本棚を紹介します。

 第26回は、デヴィッド・グリースのコンパイラ作成法の本を取り上げます。


 上掲写真は、
Gries「Compiler Construction For Digital Computers」

です(詳細は【解説欄】を参照してください)。


▼驚き(その1):こんな本が売られている!
 MIT(Massachusetts Institute of Technology)の北側に“テクノロジー・スクエァ”という場所がある。その辺りには名前の通り多くの技術系の会社や研究所が存在していました。その一角にある とある研究所で、私は仕事をしていた時代がありました。昼休みになるとMITのCo-op内の書店へ行っては技術書を漁っていました。

 そこで発見したのがこの本です。当時、新しいプログラム言語のコンパイラー開発を担当していたので、仕事に直結する書物を捜していたところだったのです。当時はまだ「コンパイラ作成法」だけを直接説明している本などありませんでしたから、この本を書棚から発見した時は、心底驚きました。アメリカではこんな本が売られているのだ! と。

▼驚き(その2):簡単に本が作れるかも‥‥!
 もう一つ驚いたことがあります。それはこの本が、コンピュータ出力として当時見慣れていた“ラインプリンタ出力”そのものを印刷したものだったからです。当時コンピュータ技術者が、普通にドキュメントとして用いているものが、そのまま書籍になっていたのです。

 ラインプリンタ出力そのままでは、今の感覚ではさぞかし印字品質が悪いだろうと思うでしょう。確かに印字品質は最低だったでしょうね。でも、私の最初の印象は、我々技術者の書いたものをそのまま本にできるのだ、という素朴な驚きでした。

 当時は、本を作りたければ著者は原稿を手書きし、あるいはタイプで原稿を作り、出版社の側の編集者がそれを読んで手書きで修正します。その結果を著者に戻し最終原稿を仕上げるのです。その段階が済むといよいよ活字を拾う専門家に渡されるのが普通でした。そして、ゲラ刷りができるといよいよ校正作業が本格化していくのです。

 したがって執筆者の思いがそのまま正しく伝わり書物が出来上がるということは絶対にありえない事だったのです。本を作るのは、何度も何度もやり直しが必要となる難しい仕事でした。そして出来上がった本は、多くの人達の妥協の産物だったのです。それが、もしかすると著者の思いがそのまま本に反映できるのではないか、という夢のような希望が生まれてきた瞬間だったのです。

 これ以後、DTP(Desktop publishing、デスクトップ・パブリッシング)の時代になっていくのです。その意味では、この本は私にとって大切な、貴重な本なのです。


【解説欄】

David Gries「Compiler Construction For Digital Computers」

・表紙

 
 ( カバー付きの表紙 )     ( 本体の表紙 ) 

 


・目次


 ( 目次 1,2,3 ) 


・内容の例


( 内容 1 )     ( 内容 2 )     ( 内容 3 )




デヴィッド・グリース
David Gries
(Wikipedia から引用)



▼本の詳細
(1)Gries Compiler Construction For Digital Computers:Copyright (c) 1971 by David Gries, John Wiley & Sons,Inc. ISBN 0-471-32776-X【初版本】


2018年6月22日金曜日

私の本棚(25):ピエール・ルメートル


・ブログ (ドッと混む・Knuhsの書斎) から転載

── ピエール・ルメートル


 私の本棚を紹介します。

 第25回は、ピエール・ルメートルの本を取り上げます。


 上掲写真で、右から順に、
(1)「その女アレックス」、
(2)「悲しみのイレーヌ」、
(3)「傷だらけのカミーユ」、
(4)「天国でまた会おう(上)」、
(5)「天国でまた会おう(下)」

となっています(詳細は【解説欄】を参照してください)。

 ピエール・ルメートルは、現在のフランス・ミステリー界を代表する作家の一人です。英仏では多くの賞を獲得しています。アメリカの推理小説ばかり読んでいた私にとっては、独創的なサスペンス小説として新鮮な驚きを与えてくれました。

 ルメートルの犯罪小説にしばしば登場するのは、小男のカミーユ・ヴェルーヴェン警部です。ミステリー史上最小の犯罪捜査官らしいです。

 なお、(4),(5)の「天国でまた会おう」は、推理小説とは一味異なるもので戦争文学と呼んだ方がよいかもしれません。ゴンクール賞に輝いたものです。


ピエール・ルメートル
(Pierre Lemaitre)



【解説欄】

▼その女アレックス
 この作品は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第2作目となるものです。パリの路上で若い女(アレックス)が誘拐されるところから物語は始まります。被害者の行方も、身元も、誘拐犯の目的も分からない。地道な捜査と思いがけない展開を経て、捜査の焦点は「女を救えるのか?」から「女は何者なのか?」へと変わっていきます。独創的な物語の展開に、読者は翻弄されることになります。

 日本では「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」など、日本のミステリ・ランキング4つをすべて制覇しているそうです 。


 ( 表紙 ) 


▼悲しみのイレーヌ
 実は、この作品がカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第1作となるもので、ピエール・ルメートルのデビュー作と言われているものです。

 私は原著の発表順ではなく、日本での発売順に合わせてこのシリーズ本を紹介しています。この発売順に読むと物語の中の時間経過と合致するからです。

 ヴェルーヴェン警部は、パリ警視庁犯罪捜査部の刑事ですが、凄惨な殺人事件の捜査現場に呼び出されます。最初からかなり残虐な場面の展開が続くようですが、この物語を楽しむにはそれを乗り切る覚悟が必要です。



 ( 表紙 ) 


▼傷だらけのカミーユ
 カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第3作ですが、3部作の完結編と言うべきものです。

 推理小説の好きな方はこの三部作を読み切ると、細部に巧妙な伏線が張られていたことに気が付くと思います。あるいは、読了後にもう一度前作を読み返してみて初めてそれに気が付く人もいるかもしれません。


 ( 表紙 ) 


▼天国でまた会おう(上/下)
 この作品は、ルメートルのこれまでの推理小説とは一線を画す内容の大作です。

 第一次世界大戦直後のパリで繰り広げられる詐欺事件の顛末が面白い。戦争、社会、友情、親子といったさまざまなテーマを取り入れたエンターテインメント性と文学性の両方を兼ね備えた作品です。

 主人公のアルベールは気弱で優柔不断ですが、軍隊を志願し戦友エドゥアール・ペリクールとともに第一次大戦の前線で4年に渡る過酷な戦争を生き延びます。アルベールの上官だったブラデルは、戦後実業家となり戦没者追悼墓地の建設で一儲けしようと企んでいます。この三人が繰り広げるドラマです。

 
 ( 上の表紙 )         ( 下の表紙 ) 


▼本の詳細
(1) 「その女アレックス」ALEX, (c)2011 by Pierre Lemaitre:2014年12月5日, 第6刷発行, ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)著, 橘明美 訳, 定価(本体860円 + 税), 株式会社 文藝春秋, 文春文庫 ル 6 1, ISBN978-4-16-790196-7 C0197

(2) 「悲しみのイレーヌ」Travail soigne, (c)2006 by Pierre Lemaitre:2015年10月10日, 第1刷発行, ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)著, 橘明美 訳, 定価(本体860円 + 税), 株式会社 文藝春秋, 文春文庫 ル 6 3, ISBN978-4-16-790480-7 C0197

(3) 「傷だらけのカミーユ」SACRIFICES, (c)2012 by Pierre Lemaitre:2016年10月10日, 第1刷発行, ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)著, 橘明美 訳, 定価(本体 840円 + 税), 株式会社 文藝春秋, 文春文庫 ル 6 4, ISBN978-4-16-790707-5 C0197

(4) 「天国でまた会おう(上)」AU REVOIR LA-HAUT(vol.Ⅰ), (c)2013 by Pierre Lemaitre:2015年10月10日 印刷, 2015年10月15日 発行, ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)著, 平岡敦 訳, 定価(本体 740円 + 税), 株式会社 早川書房, ハヤカワ文庫 HM ル 5 1, ISBN978-4-15-181451-8 C0197

(5) 「天国でまた会おう(下)」AU REVOIR LA-HAUT(vol.Ⅱ), (c)2013 by Pierre Lemaitre:2015年10月10日 印刷, 2015年10月15日 発行, ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)著, 平岡敦 訳, 定価(本体 740円 + 税), 株式会社 早川書房, ハヤカワ文庫 HM ル 5 2, ISBN978-4-15-181452-5 C0197