2014年5月22日木曜日

待ち時間に読む本

 私は外出するとき何時もショルダーバッグに本を一冊入れておく。待ち時間に読むための本である。銀行でATMの行列に並んでいる時や、病院の受付あるいは診療待合室で待っている間などに取り出して読む。待ち時間に本を読んでいると、少なくともその時間を“無駄にはしなかった”ような気分になれるのである(有効に使ったとまでは思わないが)。特に、駅で電車の到着を待っているような時はすぐさま本を取り出して読み始める。慣れてくると瞬時に物語の世界に没入できる。すると、不思議なもので電車は直ぐにやって来る。

 携帯する本は、バッグからの出し入れがしやすい文庫本サイズのコンパクトなものが向いている。更に、頻繁の出し入れに耐えられるよう、あらかじめ丈夫なカバーを掛けておくとよい。
 本の種類は技術書のような難しい本ではなく、血沸き肉躍る面白い内容の本であることが望ましい。この条件さえ満たしていれば、電車は直ぐに来る! それこそ、あっという間にやって来る(これは私が保証する)。

 待ち時間向きの本として私は海外作品のリーガルサスペンス物が一番好きなのだが、最近読んだものでは本屋で偶然に見つけた「素数の音楽(*)という本が最高であった。
  【注】(*)新潮文庫「素数の音楽」マーカス・デュ・ソートイ(冨永星訳)

 周知の通り「素数」というのは数学の世界では最も注目度の高いテーマであるから、どちらかと言えば技術書という分類に属する本である。しかし素数の研究に取り組んだ数学者たちの業績、歴史、あるいはその裏にある人間臭い数々のエピソードを読んでいると、面白くて、面白くて、思わずのめり込んでしまうのである。もちろん数式も沢山登場するが(残念ながら1か所だけ数式が間違っている)、意味を理解するのにそれほど苦労することはない。

 著者のデュ・ソートイは、オックスフォード大学数学研究所の教授であり、科学啓蒙という業績により大英帝国勲章を受章している。難しい科学のテーマを分かりやすく教える特技を持っている人らしい。そういう人が書いた本であるから尚更興味深いのである。

 待ち時間に読もうとすると、以前中断した箇所から読み継ぐ際に少し戻ってもう一度読み返す必要に迫られることもある。そうやって復習している間に電車が来てしまい、結局一行も前へ読み進めないまま再び中断しなければならなくなることもある。これは過密ダイヤのせいなのかもしれないが。

 断片的に少しづつ読み進んでいくと、どうしても読了するまでに時間が掛かる。それだけ長く楽しめるとも言えるが、全体的な感銘度や理解度は少し落ちるのではないかと思う。できれば、電車が絶対に来ないところで、もう一度最初からじっくりと読んで見たいと思う。