2014年6月26日木曜日

親知らず

 どうやら、長らく眠っていた私めの“親知らず”(第三大臼歯)が、この齢になって急に目を覚まし動き出したようである。

 実は2か月程前、口の中の左上部に口内炎ができてしまった(これは、よくあること)。その口内炎は直ぐ治ったのだが、その中心の部分にどういう訳か小さなポチッとした突起状のものが残ってしまった。2か月程経ってもその状態が変わらないので口腔外科で診てもらうことにした。

 診察してくれた医師は「これは骨ですねぇ~」と言う。つまり骨の部分が出っ張っているのだと言うのだ。予想外の診断結果に、癌だと言われるかもしれないと内心(ちょっぴり)覚悟していたので正直なところホッとしたのである。そこで「安心しました」と言ってそのまま帰ってきてもよかったのだが、どうも何か合点がいかない。骨が出っ張っているのなら以前から気が付いていた筈である。最近出っ張ってきたとしか思えない。そのとき、ふと私は気が付いた。これは親知らずではなかろうかと。

 医師もその可能性はあると私の意見に同意してくれて、早速X線写真を撮って調べてくれた。その結果、可能性は益々高くなってきたのだが、まだ確定できる段階ではない。少し様子を見ましょう、ということになったのである。

 親知らずという歯は、20歳前後に生えてくるのが普通であるという。平均寿命が短かった昔は、子供の親知らずが生えてくる前に親は亡くなってしまうから、親知らずと呼ばれるようになったらしい。

 医師よりも先に「親知らずではないか?」と気が付いたのには実は理由があった。私は歯の手入れは十分にしてきた積りなので、この齢になるまで無事にすべての歯を維持してきている。ただ残念なことに、生来左下の奥歯(第二大臼歯)が1本欠けていた。そのため、対応する左上の奥歯の方が、噛み合う相手がなくて役目を果たすことなくさびしく存在し続けていたのである。

 その歯が、長い年月の間に少しずつ下に伸びてきていた。なぜ伸びてくるのかは分からないが、下からの圧力がないのが最大の原因ではないかと思う。更に悪いことに、下に伸びた歯が少し外側に傾きだしていた。そのことに気が付かなかったので、隣りの第一大臼歯との間が少し開いてきたことにも気が付かなかった。そして両方の歯の間のみがき方が足りなかったのであろう、気が付いたときには虫歯になりかかっていたのである。その虫歯を治療するよりも(どうせ使われていない歯なら)抜いてしまった方がよい、というのが歯科医の判断であった。かくして私めは、生まれて初めて“抜歯”というものを経験することになったのである。そのとき歯医者に言われたのは、この歯の後ろに親知らずがあるから、もしかするとそれが生えてくるかもしれませんよ。そう警告されていたのである。

 親知らずも表に出たかったのであろう。それを邪魔している第二大臼歯を長年上から少しずつ押し続けていたのかもしれない。この齢になって親知らずの抜歯を受けるのかと思うと、気が重くなることである。

 年寄りになると誰でも入れ歯のお世話になるものだが、入れ歯ではなく本物の自分の歯(それも新品の!)を与えられるのだから喜ばなければいけないのかもしれない。高貴な年寄りになったことへのご褒美という風に考えられると良いのであるが。