2009年5月1日金曜日

OK牧場とO.K.CORRAL

 “OK牧場”と言えば、ガッツ石松の決めぜりふであるが、本当は西部劇映画“OK牧場の決闘”のタイトルとして有名である。
 米国アリゾナ州南東のメキシコ国境近くにあるトゥームストーン(Tombstone:墓石)という町で、保安官ワイアット・アープとクラントン一家が決闘したという史実に基づく映画であることは周知のとおりである。
 私は大学の講義の中で、これを教材にして「バーチャルの世界と現実の世界の違いをはっきり認識していないと困ったことになる」という教訓的事例の紹介に利用している。どのように“OK牧場”から教訓的事例を引き出しているかは、本論と関係ないので控えるが、詳しく知りたい人は、http://www.hi-ho.ne.jp/skinoshita/sture30.htm を参照されたい。
 授業でこの話題に触れた後で、学生の一人が「OK牧場というのは心理学用語ですよ!」と言ってきた。先生はそんなことも知らないのですか、という非難のニュアンスを含んでいる。確かに心理学の分野では“OK牧場”という用語は特別な意味を持っているらしい。しかしそれが語源であるという指摘は完全に間違っている。
 映画の“OK牧場”の原語は“O.K.CORRAL”である。“Corral”とは、馬を入れておく囲いのようなものを指し、いわゆる牧場の意味はない。事実、トゥームストーンは駅馬車の中継点であったから、駅馬車を曳いて長い道のりを走ってきた馬を休ませる場所として使われてきた。実際の決闘は“O.K.CORRAL”と呼ばれる馬囲いの中で行われたのである。しかし映画のタイトルが“OK馬囲いの決闘”では様にならないと考えたのであろう、日本では“OK牧場”と訳されたのである。
 心理学の分野では「O.K.」や「not O.K.」を矩形の中に書いて表現するらしい。この表現を考案した米国の心理学者は、確かに大変しゃれた命名をしたと思う。まさに矩形の囲いだからである。しかしそれを日本語化するとき(多分日本の心理学者が訳したのではあるまいか)“O.K. Corral”を“OK牧場”と誤訳してしまったのである。その結果、西部劇映画(人種差別の問題があり、最近は作られなくなった)に詳しくない若者たちは、“OK牧場”と言うと、その出典は心理学用語であると信じてしまったのであろう。もしかすると学生たちは、「ガッツ石松は心理学にも詳しい」と誤解しているのかもしれない。困ったことである。

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